本の紹介

百歳の遺言
 いのちから「教育」を考える

 

大田堯・中村桂子

 


藤原書店 本体1500円+税

 本紙でもなじみ深いさいたま市在住の大田堯先生は、3月22日に満百歳の誕生日を迎えられました。新著は、生命誌研究者の中村桂子さんと教育学者である大田堯さんとの息の合った対談、往復書簡で構成されています。

 お二人は、分子生物学をはじめ生物の根本から人間をとらえ、教育は「人づくり」でなく、「人なる」であることを語ります。「ひとなる」の「なる」は、「生る」「成る」「為る」の文字があり、意味としては、「現象や物事が自然に変化していき、そのものの完成された姿をあらわす」と述べ、「今、一番望むことは、次世代、その次の世代へと続く未来の人々に誰もが生き生きと生きられる社会を渡すこと。そのために、今やるべきことは、もっともっと人間について考えることではないか」と両学者は訴えます。大田先生の百歳を超えても、他の学者とともに真摯に学び続けるお姿に心を打たれます。ご一読を。埼玉教組に連絡くだされば、送料込で1400円でお分けします。


君たちに伝えたい③

 朝霞、校内暴力の嵐から生まれた僕らの平和学習

中條克俊 著

梨の木舎

 私たちの仲間である中條さんの価値ある「実践記録」である。1981年,初任校は「校内暴力」の吹き荒れる中学校でした。新任教員としての彼の初仕事は,天井の張替え作業であったとあります。教職員の懸命の努力にもかかわらず,校内の破壊,授業妨害などは続きますが,問題解決の第一歩はPTAと問題を共有し,保護者と協力して継続した校内クリーン作戦でした。これで解決と記すだけなら,どこにでもある「困難突破の物語」ということになるでしょう。  

この本を薦めるのは,「校内暴力」の背景を社会科教員として緻密に分析しているからです。その分析を土台にして,形だけの指導ではなく,生徒の内面も動かす実践を,教員集団として取り組んだところにあるのです。内面の指導といっても「道徳教育」ではありません。それは中條さん(平和おじさん)の得意とする「平和学習」の力なのです。しかも,紙の上での学習ではなく,彼の著書で紹介されたように,朝霞という地域に根差した「平和学習」なのです。

 彼の分析と,豊かな発想そして着実な実践に,若い先生方を元気づける「何か」が見つかるはずです。ぜひ一読を進めます。

最後に仲間として一言「荒れた生徒=ツッパリとの,その後のかかわりを,彼らの肉声も含めてもう少し丁寧に追って欲しかった。」

                               (南支部 小池 隆夫)


中江兆民と財政民主主義

渡瀬義男著

日本経済評論社 2100円+税

 東洋のルソーとも呼ばれる中江兆民が,帝国議会の開会,明治憲法の発布へ向けて,国会議員がいかにあるべきか。また,議員と国民(人民)がどのような関係であるべきかを,世論に喚起し,藩閥政権といかに闘ったかを示してくれる快著です。
 著者は,兆民の主張の根幹には「財政民主主義」思想が一貫して流れていたことを,繰り返し指摘しています。
 予算編成の権限も含めて,国民の代表である議員が予算の内容,増減を審議し,議決する権利を持つことこそが,主権在民の基本だという主張なのでしょう。当時の状況からラジカルな発言は弾圧の対象となるのですが,兆民の意志は,著者が言うように「壁を破るのは……二十一世紀の世代に託されている」のです。時あたかも来年度予算編成期。国民の,そしてその代表者の議員による,熟議と判断が尊重されてこその「財政民主主義」ということになるのでしょう。憲法問題や自民党「独裁」を考えるうえでも示唆に富んだ著作です。


〈原爆の図〉のある美術館

丸木位里、丸木俊の世界を伝える

岡村幸宣著

岩波ブックレット№964 定価(660円+税)

 丸木美術館は、埼玉教組の皆さんは知らない人がいないくらい有名な美術館です。東松山市下唐子にある丸木美術館で毎年開催されるヒロシマ忌には、埼玉教組比企支部の仲間たちも組織的に参加して支えています。著者の岡村さんは、1974年生まれの学芸員。丸木位里、俊夫妻が共同で描いた「原爆の図」がいかに描かれ、それがもたらした衝撃とはどのようなものだったのか。お二人の生い立ちと遍歴、そして美術史的にも再評価が進む「原爆の図」について、多くのカラー写真とともに語りかけます。よくまとまっており、平和教育にも大いに役立ちます。この夏、改めて反核、平和を考えながら、ぜひ手に取ってお読みください。


崩壊するアメリカの公教育

日本への警告

鈴木大裕著

岩波書店 (定価1800円+税)

 国連が採択した「子どもの権利条約」(日本もとっくに批准している)ではあるが、アメリカが国連加盟一九三か国中、唯一批准していない国だということをご存じだろうか?アメリカでは公教育が民営化、市場化され、序列と格差が拡大している。規制緩和の中、利益追求と徹底的な効率化とで、教員は「使い捨て労働者」と化している惨状を筆者は、自身の体験を交えて報告する。「日本ではまだ、新自由主義の本当の恐ろしさが知られていない」と。後半ではシカゴ教員組合の運動、「組合改革から公教育の『公』を取り戻す市民運動」を紹介している。アメリカの現実を「日本への警告」として訴える一九七三年生まれの若い筆者は、現在、高知県土佐町役場学校・行政コーディネーターをしている。


大田堯・寺脇研が戦後教育を語り合う

=この国の教育はどこへ向かうのか=

学事出版 税込1728円

 ご承知の通り、寺脇さんは、元文部省官僚、大田さんは、戦後民主教育の生き字引的存在。若き寺脇さんの頑張りを、寛仁大度な姿勢で対応。矛盾に折り合いをつけあいながら学ぶのが「学習」であると主張します。対話なので、読みやすいものです。大田先生サイン入り1500円でお分けします。残部少。


「教育と国家」について

高橋哲哉講演記録集
(2005年11月開催された第16次埼玉教育研究集会全体会での講演記録)

■編集・発行 埼玉教職員組合・埼玉高等学校教職員組合

■定価 1,600円+税

■A5判44ページ

■頒価 500円




ページ上部へ戻る